メタアトムの大きさによる屈折率の急激な変化について-共鳴格子-

光学

はじめに

メタサーフェイスの設計法のうち、メタアトムの形状ごとに位相差と透過率を計算し、ライブラリに落とし込む。また、必要とする光学の位相差関数を別途計算する。ここで得られた位相差関数をみたすようにライブラリからメタアトムの形状を呼び出し、理想とする光学設計を達成するメタサーフェス設計手法をLibrary法と呼ぶ。今回はその詳細は触れないが、この手法を勉強していく中で一つの疑問が生まれた。

図1. (a)半径ごとの位相差と透過率 (b) メタアトムの構造[1]

図1(a)で示しているように、メタアトムの半径を変化させると位相差と透過率が変化する。この関係の中で急激に位相差と透過率変化が生まれているところがある。この変化について、有識者に話を聞いても、”共鳴”が生じているとの説明しかされなかった。

しかし、位相差と透過率変化が生じていることからクラマース・クロニッヒの関係も満たしていることがわかる。これが意味するところを考察すると、光の振幅(透過率)が変化するということは複素感受率の虚部に影響するということ。その複素感受率のうち虚部は物質とのエネルギーの授受(エネルギー準位への影響)にあるとの理解だった。

これが意味するところはある構造においては擬似的なエネルギー準位が生まれることを意味する。(今となってはフォトニックバンドとうワードが思いつくが…)しかし、当時は構造を変えるだけでそのようなことが起きるのか懐疑的だった。

そこで色々調べたがいまいちよくわからなかったし、調査の方法もなくなったのであきらめましたがひょんなことから道筋が得られたのでメモ書きしておこうと思います。

共鳴格子

結論から言うと急激な変化した部分は共鳴格子と呼ばれる現象の様です。これが書いてあった教科書[2]を参考に軽く説明していこうと思います。ちなみに今回読んだ教科書はメタサーフェイスを勉強するうえでも回折光学素子とても勉強になる内容となっています。:回折光学素子入門. 増補改訂版(ちなみに、在庫不足で一か月くらい買えませんでした)

図2. (a)導波モード共鳴格子の構造(b)その波長特性[3]

図2に共鳴格子のうち導波モード共鳴格子を示す。今回の元論文はVCSELの共振器への利用を狙ったものでありとても興味深い内容だった。話を元に戻すと、この導波モード共鳴格子を満たす伝搬条件を満足するとき、以下の関係を満たす。

\begin{equation}
\frac{2 \pi}{\lambda} \sin \theta +m \frac{2 \pi}{d} = \beta_s(\lambda )
\end{equation}

ここで\(\lambda , \theta , d ,m ,\beta \)は入射光の波長、入射光の角度、回折格子の周期、回折次数を表す整数、導波路を伝搬する光波の伝搬定数を表す。この関係を満たすときに、光波は導波路を伝搬する。また、この構造をグレーティングカップラーと同じである。

上式を満足して導波路内を伝搬する光は、上部の回折格子にとって再度外部に放射される。ここで入射光のサイズが十分に大きいとき、上部に放射される光と入射光による反射波と重なって強め合い反射波は強くなり、基盤側に放射される光は透過波と弱めあい透過波が弱くなる。これが結果として共鳴反射として現れる。

この現象の応用例としてはフェムト秒パルスの圧縮、再帰反射板、ダイナミック導波モード共鳴格子フィルター、微小フレネルレンズなどがあげられる。これを挙げていた論文[4]もとても面白かったので合わせて参考にしてほしい。

今後について

おおむね原理が納得できるレベルまできたので、クラマース・クロニッヒの関係についても含めた物理的解釈についても行っていきたいと思う。そこらへんの出口としてはナノフォトニクスや回折格子、フォトニックバンド関連などの検索ワードを絡めて調べていけばわかりそうな手ごたえがあったので引き続き理解に努めたい。

参考文献

[1]Zhao, T., Lv, X., Wang, Y. & Wu, Y. Design of a Metasurface with Long Depth of Focus Using Superoscillation. Nanomaterials 13, 2500 (2023).
[2]応用物理学会日本光学会光設計研究グループ 監修. 回折光学素子入門. 増補改訂版, オプトロニクス社, (2006).
[3]KINTAKA, K., INOUE, J. & URA, S. 光回路表面実装のための共振器集積導波モード共鳴素子. エレクトロニクス実装学会誌 20, 336–340 (2017).
[4]Hiroyuki, I. 共鳴領域の回折光学. 応用物理 74, 597–602 (2005).

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