はじめに
近年では、自動運転やモバイル向けなどで測距センサーが注目されている。その測距センサーとして、dToFであったりFMCWというのがよく話題に上がることが多い。
dToFに関しては以前に記事で紹介している(dToFの測距性能と様々な光学仕様との関連性について)が、FMCWは自分の中でもあまり詳しくないので、改めて調査を行った。
本記事では、自分の勉強備忘録がてらPiggottの論文“Understanding the physics of coherent LiDAR”[Piggott2022]をもとにFMCWの物理の紹介をしていきたいと思う。
| 記事番号 | タイトル概要 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1回目 (本記事) | Piggottの解説論文でFMCW法を学ぶ① -SNRの計算- | FMCWの基本構造(三角チャープによる距離・速度の同時測定)と、平衡光ヘテロダイン受信機の動作を定式化。ショットノイズ制限下でのSNRが信号光電子数\(N\)に一致することを導出し、太陽光耐性がコヒーレンス時間の短さに起因することを整理 |
| 2回目 | Piggottの解説論文でFMCW法を学ぶ② -集光効率とアンテナ定理- | コヒーレントLiDARが単一モードしか検出できないことを重なり積分で確認(HG/LGモードのクロステーブルをJuliaで可視化)。Siegmanのアンテナ定理 \(A_R\Omega_R\simeq\lambda^2\) を導出し、ローレンツの相反定理から導波路への結合振幅、一様照明下での集光パワーまでを追う |
FMCW法とは
FMCWとはFrequency Modulated Continuous Waveの頭文字をとったinitialismで、レーザーを使った測距方式の一つである。
レーザーを使った測距方式をLight Detection And RangingのinitialismでLiDARと総称するが、その中でもFMCWはCoherent LiDARと呼ばれる方式であり、光の波の性質(: coherecy)を特に活用する。
FMCWでは速度と位置を測定することが可能だが、非coherent LiDAR(Amplitude modulated LiDARとも呼ぶ)のdToFでは位置を測定することのみに留まってしまう。dToFと比較して、FMCWはノイズ耐性が非常に高いことなどのメリットがある。
一方で、dToFと比較して、電場位相といったパラメータを十分考慮する必要があり、レーザー光源や光学系の十分な選定が必要不可欠であるといった点がこの方式を難しいものとさせている。(参考:従来の LIDAR に対するコヒーレント LIDAR の利点は何ですか?)
本記事では、それらのメリット・デメリットを物理的観点から解説できるようにすることを目指す。
Understanding the physics of coherent LiDAR (1-3章)
これよりは本論文(“Understanding the physics of coherent LiDAR”[Piggott2022])をベースに自分の理解と補足を加えて、記事を書いていく。
基本構造
coherent LiDARは「FMCW法では」で述べたように、概して複雑な光学系となることが一般的に知られている。

図1. FMCWの基本的な構造
図1にFMCWの基本的な構造を掲載する。FMCWでは線形にチャープ(変調)させたレーザーをターゲットにあたって帰ってきた光(信号光)とスプリッターで事前に分けた光(参照光)として使う。
後述するが、FMCWでは信号光と参照光をmixingする。このmixingプロセスが信号光を実質的に増幅させることになり、相対的にノイズの多いdetectorでも検知が可能となる。
静止している物体を考える。FMCWでは図1にある通り、レーザー光を送信する。信号光が返ってくるときに、シンプルに時間遅延した信号光が返ってくる。この時間遅延は次のようなメカニズムで検知する。まず、光ヘテロ受信機で信号光と参照光をmixingする。これによって信号光と受信光の周波数差が検出される。この周波数差は光が行って帰ってくる時間(round trip time)に比例する。この時間によって、「光速×時間=距離」から距離を求める。
動いている物体を考える。信号光が返ってくるときに、ドップラー効果により動いている速度\(v\)に比例した\(\Delta f_{Doppler} \)だけ周波数シフトした信号光が返ってくる。ここでドップラーシフト量は以下のように表せる。
\begin{equation}\label{eq:1}
\Delta f_{Doppler} \approx \frac{2v}{\lambda} \tag{1}
\end{equation}
ここで\(\lambda\)は光の波長である。
さて、FMCWでのレーザーの変調には三角変調を使うことが多い。アップチャープの後にダウンチャープが続いていくとして、アップチャープおよびダウンチャープ中にそれぞれ測定された周波数差 \(\Delta f_{up}\) および \(\Delta f_{down}\) を用いて、距離 \(d\) を計算することができる。
\begin{equation}\label{eq:2}
d = \frac{c(\Delta f_{up} + \Delta f_{down})}{4r} \tag{2}
\end{equation}
また、速度\(v\)は
\begin{equation}\label{eq:3}
v = \frac{\lambda(\Delta f_{up} – \Delta f_{down})}{4} \tag{3}
\end{equation}
となる。図2にこれらの模式図を図示する。

図2. FMCWの測距/測速度スキーム
式\eqref{eq:2}, \eqref{eq:3}について深堀する。ターゲットまでの距離 \(d\)、視線速度 \(v\)(遠ざかる向きを正)、波長 \(\lambda\)、チャープレート \(r\) [Hz/s] 、往復時間は \( \tau = 2d/c \)とする。
Up-chirp内の周波数差
送信信号は以下の様に表される。
\begin{equation*}
f_T(t) = f_0 + rt
\end{equation*}
この受信信号はドップラーシフト分( \(-\frac{2v}{\lambda}\) )が加わり、
\begin{equation*}
f_R(t) = f_T(t-\tau ) – \frac{2v}{\lambda}=f_0 + r(t-\tau) -\frac{2v}{\lambda}
\end{equation*}
したがって、
\begin{equation*}
\Delta f_{up} \equiv f_T(t) – f_R(t) = r \tau + \frac{2v}{\lambda} = r\frac{2d}{c} + \frac{2v}{\lambda}
\end{equation*}
Down-chirp内の周波数差
Up-chirp同様に計算をすると、
\begin{equation*}
\Delta f_{down} \equiv r\frac{2d}{c} – \frac{2v}{\lambda}
\end{equation*}
距離と速度の導出
Up-chirpとdown-chirpの和をとることで
\begin{equation*}
\Delta f_{up} + \Delta f_{down} = \frac{4rd}{c}
\end{equation*}
これを変形すると式\eqref{eq:2}となる。
Up-chirpとdown-chirpの差をとることで
\begin{equation*}
\Delta f_{up} – \Delta f_{down} = \frac{4v}{\lambda}
\end{equation*}
これを変形すると式\eqref{eq:3}となる。
FMCWの感度
Amplitude modulated LiDARはシステムの構成によって感度が制限される(具体的なところでは過去のdToF記事を参考にしてほしい)。この要因として検出器の暗電流や不要光などが支配的な制限となり、市販されているもので量子限界に迫るものはない。
これとは対照的に、FMCWをはじめとするcoherent LiDARではノイズの量子限界に迫るノイズレベルとなる。光源のショットノイズが支配的になる場合に達成され、これを一般にショットノイズ制限領域”shot noise limited regime“と呼ばれる。
しかし、重要なのはcoherent LiDARシステムにおけるノイズの量子限界はAmplitude modulated LiDARに比べて非常に高いということである。Amplitude modulated LiDARは黒体放射における熱雑音によりノイズ限界が制限される。しかし、光周波数領域では黒体放射による背景光が小さいため(ほとんど0)、シングルフォトンレベルのセンシングが可能である。一方でcoherent LiDARでは光源によるショットノイズが制限となり、数十個レベルのフォトンが必要となる。
ここまでの議論について視覚的にわかりやすくしたものを図3に示す。

図3. 視覚的なノイズフロアの比較
(ノイズフロアの高さについては具体的なものではなく、あくまでイメージ)
Balanced optical heterodyne receiver(平衡光ヘテロダイン受信機)

図4. 理想的な平衡光ヘテロダイン受信機
平衡光ヘテロダイン受信機(Balanced optical heterodyne receiver)を図4に図示する。受信光A,Bを3dBカプラーで合波し、それを2つのフォトダイオードで検波する。これら2つの電流差を受信機の出力として出す。また、3dBカプラーの散乱行列は
\begin{equation}
S = \frac{1}{\sqrt{2}}
\begin{pmatrix}
1 & 1\\
1&-1
\end{pmatrix} \tag{4}
\end{equation}
と表せる[参考:wikipediaのClassical lossless beam splitter]。
また、入力の電場\(E_A\)と\(E_B\)を電場強度\(A,B\)と電場の周波数を\(\omega_A, \omega_B\)として
\begin{equation}\label{eq:4}
E_A = A\cos \omega_At,\\
E_B = B\cos \omega_Bt \tag{5,6}
\end{equation}
としたときに、時間平均された光電流は
\begin{equation}\label{eq:5}
i_A = R\langle E_A^2 \rangle = R \langle A^2\cos^2 \omega_At \rangle = \frac{RA^2}{2},\\
i_B = R \langle E_B^2 \rangle = R \langle B^2\cos^2 \omega_Bt \rangle = \frac{RB^2}{2} \tag{7,8}
\end{equation}
となる。ここで\(R\)は平衡光受信機の感度であり、\( \langle・\rangle \)は平均化の演算子である。
図4では2つのフォトディタクターがあるが、そのうち一方に入射する光の電場\(E_1\)は
\begin{equation}\label{eq:6}
E_1 = \frac{1}{\sqrt{2}} (E_A + E_B) = \frac{1}{\sqrt{2}}(A\cos \omega_A t + B\cos \omega_Bt) \tag{9}
\end{equation}
電場のエネルギーは
\begin{equation}\label{eq:7}
E_1^2 = \frac{1}{2}(A^2\cos^2 \omega_A t + B^2\cos^2 \omega_B t + 2AB\cos \omega_At\cos \omega_Bt) \tag{10}
\end{equation}
これをcosの加法定理と倍角公式を使って
\begin{equation}\label{eq:8}
E_1^2 = \frac{1}{4}\left[ A^2 + B^2 + A^2 \cos 2\omega_A t + B^2 \cos 2\omega_B t + 2AB \cos(\omega_A + \omega_B)t + 2AB \cos(\omega_A – \omega_B)t \right] \tag{11}
\end{equation}
となり、光の周波数(THzオーダー)は検出器の帯域(GHzオーダー)に対して高すぎるため、( \(2\omega_A,\ 2\omega_B,\ \omega_A+\omega_B\) ) の項は検出できない。これらを落とし、感度を (\(R\) ) とすると、光電流 (\(i_1(t)\)) は
\begin{equation}\label{eq:9}
i_1(t) = \frac{R}{4} (A^2 + B^2 + 2AB \cos (\omega_A – \omega_B)t) \tag{12}
\end{equation}
ここで表現を入力光電流\(i_A, i_B\)で書き直して
\begin{equation}\label{eq:10}
i_1(t) = \frac{1}{2} (i_A + i_B) + \sqrt{i_A i_B} \cos (\omega_A – \omega_B)t \tag{13}
\end{equation}
同様に、入射する光の電場\(E_2\)を考えると
\begin{equation}\label{eq:11}
E_2 = \frac{1}{\sqrt{2}} (E_A – E_B) = \frac{1}{\sqrt{2}} (A\cos \omega_A t – B \cos \omega_B t) \tag{14}
\end{equation}
これに一致する光電流\(i_2(t)\)は
\begin{equation}\label{eq:12}
i_2(t) = \frac{1}{2} (i_A + i_B) – \sqrt{i_A i_B}\cos (\omega_A – \omega_B)t \tag{15}
\end{equation}
出力電流\(i(t)\)は、\(i_1(t), i_2(t)\)の光電流の差を用いて
\begin{equation}\label{eq:13}
i(t) = i_1(t) – i_2(t) = 2\sqrt{i_A i_B} \cos (\omega_A – \omega_B)t \tag{16}
\end{equation}
したがって、平衡光ヘテロダイン受信機は2つの入力電場の周波数差\(\omega_A-\omega_B\)を直接測定することができる。
ここでなぜFMCWは太陽光(不要光)に影響されないかというのをヘテロダイン検波の理屈から考え直す。FMCWの関連論文では”当たり前の前提”として、細かく解説している論文がなかったので調査しなおした。その結果、横国大の最近の論文で詳しく解説されていた[Kamata2024]。
結論から言うと太陽光のコヒーレンス時間の短さが大きく影響している。太陽光のコヒーレンス時間は10\(^{-14}\)秒といわれている(参考:Simple is the bestの実験)。一方で、FMCWでの測定時間(後述する窓関数)は10\(^{-6}\)秒オーダーである。
これらのことからヘテロダイン検波による干渉検出において、太陽光による影響を受ける時間は10\(^{-14}\)秒程度でこれはランダムウォーク的な加算となり、10\(^{-6}\)秒の期間を時間平均するとほとんど無視できる。
Shot-noise limited detection(ショットノイズ制限検出)
coherent LiDARシステムでは、ターゲットから散乱された光子を検出するために平衡光ヘテロダイン受信機を使用する。
光源の光は平衡光ヘテロダイン受信機の入力\(A\)に、帰ってきた光(散乱光)は入力\(B\)にそれぞれ入力される。また、帰ってきた光は通常極めて小さく、わずか数十個の光子から構成される場合もある。
そのため、光源から分岐された参照用の光電流\(R\langle E_A^2\rangle = i_{LO}\)は信号の光電流\(R\langle E_B^2\rangle = i_{sig}\)より大きい。
理想的には、平衡光ヘテロダイン受信機はほかのあらゆるノイズ源よりも光源ノイズが大きい場合、いわゆるショットノイズ制限領域で動作させるのが望ましい。
Signal
すべてのノイズ源を無視できる場合、式\( \ref{eq:13}\)からFMCWのsignal量を計算できる。
\begin{equation}\label{eq:14}
i(t) = 2\sqrt{i_{LO}i_{sig}} \cos (\omega_A-\omega_B)t \tag{17}
\end{equation}
ここで周波数\(\Delta \omega = \omega_A – \omega_B \)はターゲットまでの距離に比例する。このFMCW信号は非常に微弱で、通常は検出器の出力をフーリエ変換することで周波数領域で検出される。
今回の目的はsignalの光電子数を見積もることである。ここで光電子数は信号光電流\(i_{sig}\)および積分時間\(T\)に依存する。ここで窓関数\(w(t)\)、ディテクターの光電流出力\(i(t)\)としたとき、窓関数を適用した検出器出力\(i_w(t)\)は以下の様に表され、
\begin{equation}\label{eq:15}
i_w(t) = i(t)w(t) \tag{18}
\end{equation}
次に、周波数領域における窓関数を適用した検出器出力\( I_w(f) \)はフーリエ変換を用いて\( \mathcal{F} [ i_w(t) ] = I_w(f) \)と定義される。畳み込みの定理を使って、
\begin{equation}\label{eq:16}
I_w(f) = I(f)*W(f) \tag{19}
\end{equation}
ここで、\( I(f)\)と\(W(f) \)は\(w(t)\)、\(i(t)\)のフーリエ変換の関係にある。また、\( \mathcal{F}[cos(ω_0t)]=\frac{1}{2}[δ(f−\frac{\omega}{2\pi})+δ(f+\frac{\omega}{2\pi})] \)の関係を用いて、\(I(f)\)は
\begin{equation}\label{eq:17}
I(f) = \sqrt{i_{LO}i_{sig}} [δ(f−f_A+f_B)+δ(f+f_A-f_B)] \tag{20}
\end{equation}
ここで、\(f_A = \omega_A/2\pi \)と\(f_B = \omega_B/2\pi \)定義した。
続いて、窓関数のフーリエ変換について考える。実際の窓関数は様々な形状をしているが、本論文では議論を単純化するために矩形の窓関数を用いた。この関数は次のように表せる。
\begin{equation}\label{eq:18}
\mathrm{rect}(t) = \begin{cases}
1 & |t| < \dfrac{1}{2} \\ 0 & \text{otherwise} \end{cases} \tag{21}
\end{equation}
矩形の窓関数は積分時間\(T\)を持ちいて
\begin{equation}\label{19}
w(t) = \mathrm{rect}\left( \frac{t}{T} \right) \tag{22}
\end{equation}
また、矩形関数のフーリエ変換は\( \mathcal{F}[\mathrm{rect}(t)] = \mathrm{sinc} (f) \)となるので、窓関数のフーリエ変換\(W(f)\)は
\begin{equation}\label{20}
W(f) = T \mathrm{sinc}(Tf) \tag{23}
\end{equation}
と表す。ここまでの議論から周波数領域における窓関数を適用した検出器出力は
\begin{equation}\label{eq:22}
I_w(f) = T\sqrt{i_{LO}\, i_{sig}}\left[\operatorname{sinc} T(f – f_A + f_B) + \operatorname{sinc} T(f + f_A – f_B)\right] \tag{24}
\end{equation}
したがって両側エネルギースペクトル密度は
\begin{equation}\label{eq:23}
|I_w(f)|^2 = T^2\, i_{LO}\, i_{sig} \left[\operatorname{sinc}^2 T(f – f_A + f_B) + \operatorname{sinc}^2 T(f + f_A – f_B)\right] \tag{25}
\end{equation}
となる。ここで \( |f_A – f_B| \gg 1/T \) を仮定し、クロス項は無視した。
Shot noise
FMCW LiDARの信号強度に続き、光電流のショットノイズによるノイズフロアを決定する。ショットノイズは光ダイオードの光電流の和\(i_1+i_2\)に依存し、通常は参照光の光電流(\(i_{LO}\))にほぼ等しい。したがって、ショットノイズの両側電力スペクトル密度は
\begin{equation}\label{eq:24}
S(f) = q\, i_{LO} \tag{26}
\end{equation}
である。ここで \(q\) は電子の電荷。窓関数を掛けたショットノイズの期待エネルギースペクトル密度 \(\langle |I_n(f)|^2 \rangle\) は、\(S(f)\) と窓関数のエネルギースペクトル密度 \(|W(f)|^2\) の畳み込みで与えられる
\begin{equation}\label{eq:25}
\langle |I_n(f)|^2 \rangle = S(f) * |W(f)|^2 \tag{27}
\end{equation}
これを計算すると
\begin{equation}\label{eq:26}
\begin{aligned}
\langle |I_n(f)|^2 \rangle &= \int_{-\infty}^{\infty} S(f – f’)\, |W(f’)|^2\, df’ \\
&= \int_{-\infty}^{\infty} q\, i_{LO}\, T^2 \operatorname{sinc}^2 Tf’\, df’ \\
&= q\, i_{LO}\, T,
\end{aligned}\tag{28}
\end{equation}
ここで
\begin{equation}\label{eq:27}
\int_{-\infty}^{\infty} \mathrm{sinc}^2(x) dx = 1 \tag{29}
\end{equation}
を利用した。
Signal-to-noise ratio
これまで導出してきたSignalとnoiseを総合したエネルギースペクトル \(\langle |I_t(f)|^2 \rangle\)は
\begin{equation}\label{eq:28}
\langle |I_t(f)|^2 \rangle = |I_w(f)|^2 + \langle |I_n(f)|^2 \rangle \tag{30}
\end{equation}
これをプロットしたものを図5に示す。

図5. FMCW LiDAR信号の期待エネルギースペクトル密度
続いて、signal-to-noise ratio(通称:SN比、SNR)は
\begin{equation}\label{eq:29}
\frac{ |I_w(f)|^2 }{ \langle |I_n(f)|^2 \rangle } = N[\mathrm{sinc}^2 T(f-f_A+f_B) + \mathrm{sinc}^2 T(f+f_A-f_B) ] \tag{31}
\end{equation}
と表すことができる。ここで\(N\)は窓関数の時間幅\(T\)の間に取得したsignalの光電子の数であり、
\begin{equation}
N = \frac{i_{sig}T}{q} \tag{32}
\end{equation}
と表せる。またSignalの周波数は図5より\( f = f_A-f_B\)であり、式\eqref{eq:29}の右辺第一項\( \mathrm{sinc}^2 T(f-f_A+f_B) = \mathrm{sinc}^2 T(f_A-f_B-f_A+f_B) = 1\)であり、第二項は\( |f_A – f_B| \gg 1/T \)なため0になる。よって、周波数領域におけるSNRは
\begin{equation}
\mathrm{SNR} = N \tag{33}
\end{equation}
これが、コヒーレントLiDARシステムには「単一光子感度(シングルフォトセンシティビティ)」があるという、よくある主張の根拠になっている。しかし、SNRが1というのは、確実な検出を行うには到底十分ではなく、実用上、コヒーレントLiDARシステムが実際に検出を行うには数十個の光子が必要となる。



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