はじめに
こちらの記事は以前の記事(Seidelの収差論(3次収差論)の理解にむけたメモ書き①-瞳面と波面収差の立式-)の続きとなっている。記事一覧は以下のようになっています。
| 記事番号 | タイトル概要 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1回目 | Seidelの収差論①-瞳面と波面収差の立式 | 収差論の基礎として「瞳面」や「波面収差」の定式化(入射/出射瞳、NA、Fナンバーなど)を平易に解説 |
| 2回目 | Seidelの収差論②-光線収差とSeidel収差の各項 | 波面収差を展開し、Seidel収差(球面収差、コマ、非点収差、像面湾曲、歪曲)の導入までを体系的に整理 |
| 3回目 | Seidelの収差論③-Juliaによる可視化 | これまで導入したSeidel収差をJuliaで数式化し、各収差(球面収差、コマ、非点収差、像面湾曲、歪曲)を可視化。理論と直感的理解をつなげる内容 |
この記事単体で読んでも各Seidel収差のそれぞれの項がどのように表現されるかを理解できるように努める。また、Bornによる「光学の原理」[草川1974]p288~を中心に進めるが、自分の理解をもとにより簡略な表現と納得を目指している(今回の章は行間が多すぎて最初に読む限り自分は理解できなかった。)。より厳密さを追うなら元教科書を読むことを勧めたい。
次回の記事は各Seidel収差がどのように影響されるかを整理したい。
2次項\( \Phi^{(2)} \)の考察


前回の記事で用いられたパラメータを再掲する。また、今回想定してる光学系は回転対称な光学系である。
- 射出面上での瞳座標\(Q\):\( \mathbf{r} = (X,Y)\)。極座標では \( \rho=\sqrt{X^2+Y^2}, φ=arg(X,Y) \) 。
- 像面座標(\(\propto P_1^* \)):\( h\) または \( \mathbf{r_0^*} =(X_0^*,Y_0^*) \)。
- 波面収差:\( \Phi(X_0,Y_0;X,Y) \)。
ここで波面収差を展開すると回転対称な光学系であるために、べき級数は偶数次のみになり、
\begin{equation}
\Phi = \Phi^{(0)} + \Phi^{(2)} + \Phi^{(4)} + \Phi^{(6)} \cdots
\end{equation}
となる。ここで各項の展開を行っていくと\( \Phi^{(0)}\)については\( \Phi(0,0;0,0) = 0 \)となるため存在しない。\( \Phi^{(2)}\)について考察していく。この部分については教科書に記述が乏しく、自分としては引っかかった部分であった。
今回は回転対称の光学系であり、2次の不変量( \( \mathbf{r_0^*} \)と\( \mathbf{r}\)から作れるスカラー )は以下の3種類となる(詳細は以前の記事)。
\begin{align}
\mathbf{r_0^*}^2 &= X_0^{*2} + Y_0^{*2}\\
\mathbf{r}^2 &= X^{2} + Y^{2}\\
\mathbf{r_0^*}\cdot\mathbf{r} &= X_0^{*}X + Y_0^{*}Y
\end{align}
したがって、一般の2次項は
\begin{equation}
\Phi^{(2)} = a \mathbf{r_0^*}^2 + b \mathbf{r}^2 + c (\mathbf{r_0^*}\cdot\mathbf{r})
\end{equation}
の形になる(定数 \(a,b,c\) )。
ここでこれらの2次項の各項についての考察を深めていく。そのために、現在考慮している波面収差の考察だけでは理解が難しいため、光線収差を考える。

波面\( \Phi \)の局所勾配(微分値)は言い換えると「その点での波面の傾き」であり、その法線方向が光線の向きになる。また、小角近似(~Gauss近似)では、波面の傾きに比例して光線の方向が変わり、その「角度の変化量」を「像面までの距離」で掛けると光線収差になる。よって以下の式が成り立つ。(丁寧な説明は以前の記事参照)
\begin{align}
\Delta X \propto \frac{\partial \Phi}{\partial X} \\
\Delta Y \propto \frac{\partial \Phi}{\partial Y} \\
\end{align}
\( \Phi^{(2)}\)を微分すると
\begin{align}
\frac{\partial \Phi^{(2)}}{\partial X} = 2bX+cX_0^* \\
\frac{\partial \Phi^{(2)}}{\partial Y} = 2bY+cY_0^* \\
\end{align}
各項について考察を進めていく。

\(2bX, 2bY\)の項はデフォーカスに値する。これは瞳の位置\( (X,Y)\) に一次で増える放射状の光線差ということがわかる(回転対称であり、同じ\(b\)の係数で拡大縮小される)。これはまさにデフォーカスと同様な作用をしていることがわかる。
\(cX_0, cY_0 \)の項はチルトに値する。これは瞳座標に依存しない定数ベクトル(視野 \( \mathbf{r_0^*} =(X_0^*,Y_0^*) \)に比例)。波面全体が同じ方向に傾いた平面になる。これはまさにチルトと同様な作用をしていることがわかる。
上記に直感的なイメージ図を追加した。理解の助けとしてほしい。
これらの項はデフォーカスもチルトに関しても物体位置や像面位置の取り方で変更可能である。今回考察したいのは収差に関してなので、位置の取り方によって自由に変更できるこれらの項は無視して議論を進める(無視できるようにうまいこと基準面をとっていると仮定すればいい)。
よって\(b = c = 0\)となる。
また、\( a \mathbf{r_0^*}^2 \)の項については光線収差の観点からは消えないが、瞳座標\( (X,Y)\)に依存していないことがわかる。そのため、波面全体が”同じ”だけ平行移動しているだけであり、像の形状はこの項に影響されない。よって収差に関係ない項といえる。
Seidel収差
ここまでの議論から、波面収差\( \Phi\)は次のようにべき級数展開しなおすことができる。
\begin{equation}
\Phi = a\mathbf{r_0^*}^2 + \Phi^{(4)} + \cdots
\end{equation}
係数\( a\)の項については収差に影響しない。よって、収差を考察するにあたって4次項\( \Phi^{(4)}\)のみを考察していく。4次の項を考察するにあたって、今一度変数について整理する。
\begin{equation}
\Phi^{(4)}(X,Y,X_0,Y_0)
\end{equation}
として展開したときに以下のように変数を置くと
- 像高ベクトル
\( (X_0,Y_0), \quad r = \sqrt{X_0^2+Y_0^2}, \quad \theta = \arctan\frac{Y_0}{X_0} \) - 瞳面ベクトル
\( (X,Y), \quad \rho = \sqrt{X^2+Y^2}, \quad \varphi = \arctan\frac{Y}{X}
\) - 内積
\( (X,Y)\cdot(X_0,Y_0) = X X_0 + Y Y_0 = \rho r \cos(\varphi-\theta)
\)
ここでべき級数展開の4項の各項について回転対称な光学系(=軸対象化)といった条件から各項が消えていく、これらをまとめたものを以下の表に表す。
| 種類 | 例 | 制約による扱い | 残る代表 |
|---|---|---|---|
| 瞳面だけ (\(X,YX,Y\) のみ) | \( X^4,X^3Y,X^2Y^2,\dots \) | 軸対称化すると \( \rho^4 \)だけが独立に残る(球面収差)。角度依存(\( \cos4\varphi, \sin4\varphi \) など)は消える。 | \( \rho^4\) |
| 像高だけ (\(X_0,Y_0\) のみ) | \(X_0^4, X_0^3Y_0, \dots\) | 「必ず瞳座標 (\( X,Y\)) を含む」ので消える(チルトと同じ論理)。純 \( r^4 \)は寄与しない。 | 消える |
| 次数3+1の混合 | \(X^3 X_0, X^2 Y X_0, \dots\) | 軸対称化により \( \rho^3 r \cos(\varphi-\theta) \) にまとめられる(コマ)。sin 項や cos3 項は消える。 | \( \rho^3 r \cos(\varphi-\theta) \) |
| 次数2+2の混合 | \( X^2 X_0^2, X^2 Y_0^2, \\ XY X_0Y_0, \dots\) | すべて \( \rho^2 r^2 \)と \( \rho^2 r^2 \cos^2(\varphi-\theta) \)の線形結合に縮約。軸対称性で基底は2つだけ(像面歪曲、非点)。 | \( \rho^2 r^2,\\ \ \rho^2 r^2 \cos^2(\varphi-\theta) \) |
| 次数1+3の混合 | \( X X_0^3, Y X_0^2Y_0, \dots \) | 軸対称化により \( \rho r^3 \cos(\varphi-\theta)\) にまとめられる(歪曲)。 | \( \rho r^3 \cos(\varphi-\theta) \) |
よって、残る項を使って
\begin{equation}
\Phi^{(4)} = A\rho^4+Br \rho^3\cos(\varphi-\theta)+Cr^2\rho^2 \cos^2(\varphi-\theta)+Dr^2\rho^2+E\rho r^3 \cos(\varphi-\theta)
\end{equation}
となる。これがまさにSeidelの収差を表している。下記表の様に名称をまとめることができる。ここまでは波面収差を考えていたが、Seidel収差を考えるうえで光線収差で議論することが多い。光線収差は波面収差の変微分で表されることに注意して
| 波面収差の項 | 光線収差での依存形 | 光線収差名 |
|---|---|---|
| \( A \rho^4 \) | \( \propto \rho^3\) | 球面収差:瞳座標の3乗に比例。軸上でも残る。 |
| \( B r \rho^3 \cos(\varphi-\theta)\) | \( \propto r \rho^2\cos(\varphi-\theta) \) | コマ収差:像高に比例し、瞳の2乗依存。典型的なコマ尾像をつくる。 |
| \( C r^2 \rho^2 \cos^2(\varphi-\theta) \) | \( \propto r^2 \rho \cos(\varphi-\theta) \) | 非点収差:像高の2乗に比例、瞳半径に一次比例。メリディオナル/サジタルで焦点がずれる。 |
| \( D r^2 \rho^2 \) | \( \propto r^2 \rho \) | 像面湾曲:像高の2乗に比例し、像面が曲面になる。非点と対になって現れる。 |
| \( E \rho r^3 \cos(\varphi-\theta) \) | \( \propto r^3 \cos(\varphi-\theta)\) | 歪曲:像高の3乗に比例。像面全体の倍率変化(樽型/糸巻型)。 |
となる。
ここで、波面収差は4次の項に対して光線収差は3次の項となっているので、これをもって”3次収差”[尾崎2018]と呼ばれている。



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